さて、送信機の終段に使う真空管(終段管)の要求スペックは、送信周波数が高くなるにつれて厳しくなっていきます。
具体的に言うと、周波数が高くなると真空管の内部抵抗が低くないとならなくなってきます。
終段管のプレートにはタンク回路がついていて、このタンク回路が終段管からエネルギーを受け取って正弦波交流に変換してアンテナに送ります。
タンク回路にはQ値というものがあって、Qが高いと終段管の内部抵抗は高くていいのですが、損失が増えるほか帯域が狭くなって同調が取りにくくなります。
Qが低いと損失は減って帯域も広くなりますが、終段管の内部抵抗は低くなければいけなくなるほかスプリアスが出やすくなります。
タンク回路の同調容量を C , 負荷時Qを Q , 送信周波数を f とすれば、終段管に必要な内部抵抗 Rp は以下の式で求められます。
Rp = ( 2 * Q ) / ( 2 * π * f * C ) [Ω]
Rp = Ep / Ip
この式から分かる通り、プレート抵抗は周波数と同調容量に反比例し、Qに比例します。
同調容量Cはタンク回路の同調コンデンサ容量に終段管の電極間容量や配線などの寄生容量を足した値になるので、
あまり小さい値にすると同調が不可能になります。Qは12~16程度で、あまり高いと損失が大きくなります。
短波帯の下の方の数MHz程度の周波数なら高電圧をかけてプレート電流を小さく取る=内部抵抗が高く取れますが、
短波帯の上の方の十数MHzほどに周波数が高くなると内部抵抗を低くしないと同調できなくなってきます。
つまり低いプレート電圧でたくさんのプレート電流が流せる真空管が必要になります。
プレート電圧を Ep , グリッド電圧を Eg , 増幅率を µ , グリッドカソード間距離を a , プレートグリッド間距離を b ,
カソード面積を S とすると、グリッド電圧が負の場合の平面電極三極管のプレート電流 Ip は次の式で求められます。
Ip = ( ( 2.33 * 10
-6 * S ) / a
2 ) * ( ( ( µ * Eg ) + Ep ) / ( 1 + ( ( 4 * b ) / ( 3 * a ) ) + µ ) )
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式は複雑ですが、プレート電流を増やして内部抵抗を低くする方法は
- カソード面積を増やす=フィラメントを太く、長くする
- グリッドとフィラメントを近づける
- プレートとグリッドを近づける
- μを低くする=グリッドを細い線で粗く巻いて作る
以上のようになります。しかし、これらの方法には以下の困難が伴います。
- カソード面積を増やすと加熱電力が増大する
- 電極同士を近づけると組み立てが難しくなり、衝撃などで短絡する恐れがある
- μを低くすると増幅率が下がるので、内部抵抗とトレードオフ関係になる
これのうち上2つを解決するにはそれぞれ、
- カソードを酸化物陰極など効率の良いものにする
- 電極自体を堅固な構造にし、ガラスビードやマイカ板などで電極を支持する
などがあります。
酸化物陰極は是非作りたいのですが、真空度の維持や酸化物ペーストの作成に様々な問題があります。
特に酸化物ペーストは製造に多量の硝酸が必要で、コストの増大が大きな問題です。
ガラスビードは高温下では耐圧が下がって最終的に短絡を起こすので、
できればマイカ板による支持を実現したいところですが、マイカは高温でガスを出すのでこれまた厄介です。
このような真空管の真空度の維持にはバリウムゲッターが必要ですが、バリウムゲッターを購入するツテがなく、
自分で研究して作るしかないのですが、金属バリウムを作るのは相当難しく、しばらくは実現しなさそうです。
つづく...