IPUT電子工学研究会による様々な研究結果をおいておくところ

理化学ガラス細工


ガラス細工の中でも特に、ガラス管を材料にして内部に流体を通したりする実験装置を作るのは理化学ガラス細工と分類されるが、
理化学ガラス細工の技法のほとんどは、玉吹きを土台にして成り立っていると言っても過言ではないかもしれない。
ガラス管同士をただ接合する直管つなぎであっても、玉吹きの技術が必要なのである。
玉吹きというと、ガラス炉に鉄パイプを突っ込んで溶けたガラスを巻き取り、それに息を吹き込んで中空の玉を作ることを想像するであろう。
勿論これも玉吹きであるが、玉吹きはガラスを膨らませて玉を作るだけの技法ではなく、もうひとつ重要な役割がある。
それは肉厚を均一にすることである。肉厚を均一にするのがなぜ重要かというと、熱伝導率が悪くて張力に弱いというガラスの特性を克服し、実用品を作るためである。
まず、ガラスは張力に弱い。張力とは字のごとく引っ張る力のことであって、普通のガラスはだいたい1~2kg/mm2以上の張力がかかるとそこから裂けてしまう危険がある。
ガラスに張力がかかるのは機械的に荷重をかけたときは勿論、ガラス内の温度差による熱膨張の差でも張力がかかる。そして、ガラスは熱伝導が悪く、
5~6cmの長さのガラス棒を手に持ち、その先をバーナーで溶かしていても全然平気な程度である。つまり、ガラス管の中に熱い流体を流したりすると、
外側は冷たいのに内壁は熱い、つまり内壁は熱膨張しているのに外側が熱膨張しないままとなるので、張力がかかる。この時の張力が耐えられないほどになるとひびがはいってしまう訳である。
ガラスが分厚いほど温度差が激しくなり、少しの熱でも割れやすくなるので、ガラス管を細工した時に肉厚が均一でないと、加熱の際に割れる原因となる。
また、ガラスは異常膨張を起こす物質である。ガラスの温度を上げていくと最初は線形に膨張するが、ある温度で急に膨張が大きくなってピークを持ち、溶けると逆に収縮する。
ガラス管を溶かしたあと冷えて固まる時、まずは外側が冷えて固まり、次に内側が冷えて固まる。冷えて固まるときは収縮するが、内側が冷えるときは外側がすでに固まっているので、
本来収縮するところまで収縮できず、張力歪みが生じる。この張力歪みはガラス細工をする上で厄介なもので、歪みによる張力に耐えられずに細工品が勝手に割れてしまうことがある。
うまく形ができた細工品でも、歪みが残っていると耐久性に問題が生じてしまう。歪みはガラスが厚いほど強くなる傾向にあるので、肉厚が均等でないと歪みができやすい。
歪みを取り除くには「なまし」をする。なましというのはガラスをガラス転移点以上の除歪温度(400~500℃くらいで、ガラスの組成により異なる)に加熱することで、
これによりガラスを変形させることなく歪みを取ることができる。小さくて肉厚の薄い細工品ならバーナーの炎を調整してもできるが、大きな細工品や厚いガラスなどでは困難なので、
正確な温度調整のできる電気炉を使って行う。除歪温度には下限除歪温度と上限除歪温度があり、下限除歪温度に近いほどなましに時間がかかり、上限除歪温度に近いほど変形の危険がある。
普通は下限除歪温度より少し高い温度に設定して1日ほどかけてなましを行う。上限除歪温度に近いとなましは早く終わるが、誤差などで温度を越すとガラスが溶けて変形するので、
そのリスクを避けるために下限に近くしているわけであるが、下限ギリギリに設定すると何十時間かけても歪みが少ししか取れないことになる。

よくガラス細工と飴細工が似ているものと言われるが、ガラスも飴も同じく非晶質で、同じ特性を持っている材料なのでその通りである。
よって細工の技法にも似たものがあるが、冷える速度や加工温度範囲などの違いで全ての技法が共通しているわけではない。

切断


ガラス管は定尺と呼ばれる長さで販売されている。
定尺は普通1.5mであるが、これをそのままタネにしても長すぎてガラス細工ができないので、扱いやすい長さに切断しないといけない。
直径が10mmくらいまでのガラス管なら、切断する箇所に目立てヤスリなどで傷をつけ、傷を引っ張って裂くようにして折ることができる。
この時のコツはガラス管を長手方向に引っ張りながら折ることで、ポッキンアイスを折るようにすると端が欠けて斜めに切れてしまう。

目立てヤスリでなくともガラスより固い刃物なら傷をつけられる。自分は毛細管を切るのに工具鋼のバイトを使っている。

玉吹き


ガラス管に玉を吹くには、まず吹きを入れられるようにしなければならない。
吹きを入れるというのはガラス管の開放端から息を吹き込んでガラス管の内側に圧力をかけることである。
定尺のガラス管から切断したガラス管はまだ両端が開放されているので、吹きを入れることができない。
なので吹きを入れるときは他の開放端を何かしらの方法で封じなければならない。封じる方法にはガラスを溶かして封じたり、
ゴム栓をはめるなど色々あり、状況によって使い分ける。

吹きが入れられるようになったら、ガラス管を回転させながらバーナーの炎に当て、ガラス管が均等に加熱されるようにする。
ガラスは熱伝導が悪いので、等速度で回転させないと温度むらができる。温度むらは粘度のむらとなり、
吹きを入れた時に肉厚が一定にならず玉がいびつになる原因になる。
ガラスが柔らかくなると炎が黄色くなり始める。このまま回転を続けるとガラス管の肉厚がだんだん厚くなる。
これを肉寄せといい、この時の肉の溜まり方が玉の形に繋がる。
十分に肉が溜まったら炎から取り出して吹きを入れるが、この時に炎の横から取り出すと温度むらになるので、
上の方から取り出すか、バーナーの空気を遮断してから取り出して吹きを入れる。
吹きを入れるときに回転をやめてしまうと加熱された空気の対流によって温度むらができてしまうので、回転を続けなければならない。
炎から取り出すタイミングはその時のガラスの赤熱した色、焼け色をみて判断するが、これはとにかく練習しないと身につかない。
最初から上手な玉は吹けないので、ガラス管を溶かしてこねてみるとかをしてガラスの特性と焼け色をよく身に着けると良い。

中肉管なら、その直径の2倍程度までなら肉寄せをせずに薄肉の玉を吹くことができる。
3倍以上に膨らませる場合や、肉厚を均等にする場合はよく肉寄せをしないといけない。

直管つなぎ


接合するガラス管は、接着した時に吹きを入れられるようになっていないといけない。
つなぐべき2つのガラス管の端を同時に炎に入れて回転させて、溶けてきたら炎から取り出して接着する。
接着したら再び炎の中で回転させ、ガラス管同士をよくなじませる。そうすると玉吹きの時と同じように肉が溜まってくるので、
玉吹きと同じ要領で炎から取り出して少し吹きを入れ、まだ柔らかいうちに引き伸ばし、直径と肉厚を均等にする。

ガラス管を継ぐだけの技法ではあるが実際は結構熟練を要するもので、慣れないうちは肉厚が薄いところができて壊れやすいものができたりする。
直径の大きいものは焼き縮めて口の直径を小さくしてから継ぐ。
また異径のガラス管同士を継ぐのも同じように焼き縮めて口の径を揃えてから直管つなぎの手順でやる。

側管つなぎ


これはT字管つなぎともいうもので、ガラス管の側面に別のガラス管を継ぐものである。
まず側管を継ぐガラス管は吹きが入れられるようにしておき、側管をつなぐ部分の周囲を弱い炎で十分熱してから、
つなぐ部分を細めの炎で熱して軟化させ、吹きを入れて小さな玉を作る。この玉の直径はつなぐべきガラス管の直径より少し小さいようにする。
玉が小さすぎたり大きすぎるときは一回焼き縮めてやり直す。そうしたら、玉の頂点の部分を鋭い炎で熱して吹き破る。
このとき吹きが強すぎるとガラスの薄膜が飛び散って厄介なことになるので注意する。
こうするとガラス管の横に短い側管ができるので、あとは直管つなぎと同じ要領でそこにガラス管を継ぐ。

環状管


ソックスレー抽出器などのようにガラス管が環状になっていて流体がそこを循環するようなものを作るには、
側管繋ぎをしたあとにもう一箇所を吹き破り、側管を曲げてそこに当てがって、
次にガラスのリボンを溶かして巻きつけて吹きが入るようになったらそのまま側管つなぎの要領で整えていく。

ピンホールの対処


ガラス管を継ぐとき、特に側管つなぎや環状管を作るときに小さな穴(ピンホール)ができてしまい、吹きが入れられなくなる時がある。
ピンホールが小さいときはその周囲を溶かし、吹きを入れるのではなく少し吸い込むことで閉じることができる。
穴が大きくて吸い込んでも閉じないときは、細く伸ばしたガラス棒をそこに半田のごとく溶かしこんで閉じるが、うまくやらないと気泡が混じる原因になる。

ピンホールのできる原因は、ガラス管を継ぐときに温度が低く溶けていないところがあったり、接着の時に押し付けが足りなかったなどである。

ガラスの種類、熱膨張率など


ガラスには成分の比率により、鉛ガラス、軟質ガラス、硬質ガラス、パイレックス、石英ガラスなど、様々な種類がある。
ガラスの成分を変えると、透過する光線のスペクトルや、加工温度、化学的耐久性、機械的耐久性、熱膨張率などのパラメータが変化する。

化学的耐久性の低いガラスは、長く水につけているとガラスに含まれるアルカリ分が溶け出して変質してしまい、
炎にかけるとすぐに割れて細工できなくなるなど不都合が起こることがある。長く使った軟質ガラス製の冷却器などは修理に失敗することがある。
試薬などを入れるアンプルなどは、アルカリが溶け出して内容物にコンタミをおこさないよう、硬質ガラスを使って作られる。

熱膨張率が近似していないガラス同士を細工する場合、普通に細工して接着しても冷却後に割れる。
また、職人はガラスが歪みや熱膨張率の違いで割れてしまうことをハネるという。
具体的にどれくらいの差までハネないかというと、経験的に熱膨張係数が 8*10-7/℃ くらいまでなら大丈夫とされている。

ガラスを細工する際、接合する部分の汚れは十分に取り除いておかないと、接合した後に不純物のスジや気泡ができることがある。
また、シリコーン油などが付着していると加熱によって分解しシリカができるので、接合ができなくなってしまう。

鉛ガラスを細工する際、バーナーに供給する燃焼ガスの硫黄分が極端に少ない場合、細工品が壊れやすくなることがある。
これは都市ガスが硫黄分の多い石炭ガスから少ない天然ガスに切り替えられた際、
蛍光灯工場において製品の歩留まりが悪化したことから発見された。

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