IPUT電子工学研究会による様々な研究結果をおいておくところ

受信管と送信管


この呼称は用途ではなく扱う電力によって変わる。
一般に、取り扱う電力が数十ワット以下の真空管を受信管といい、それ以上のものを送信管という。

送信機の終段管であっても1~2W程度の出力ならば受信管と呼ばれるし、
受信機でもテレビ受像機の水平偏向管には807などの送信管が使われることがある。

シングルエンド型とダブルエンド型


ダブルエンド型は1つの真空管に2つ以上のステムを備えているタイプをいう。
オーディオン管や初期の遮蔽格子四極管などの黎明期の真空管や、大型の送信管などに用いられる。
電極の位置合わせが難しく、製造工程が煩雑になるので大量生産にはあまり向いていないが、
電極間容量の低減や、耐電圧の向上に効果がある。

シングルエンド型というのは、ステムが1つだけあるタイプのことをいう。
大量生産されている受信管はほとんどこのタイプである。
導入線の間隔が狭いため、高い電圧をかける真空管や高温になる真空管には向かない。

ステムの種類


真空管の電極を導入線を介して真空容器の外に引き出し、電極を機械的に保持するものをステムという。

ピンチステムは真空管の黎明期から使われているステムで、その直径の1.5~3倍くらいに切ったガラス管の端を広げ(フレア)、導入線を差し込んで炎で溶かし、工具でつまんで溶着させてある。
パンタムステムはピンチステムの全長を特に短くしたものをいい、長さはガラス管の直径の1倍くらいである。

ボタンステムは円形のガラス板を導入線が貫通したような形をしていて、特殊なプレス機を使ってガラス管を溶かしてプレスし作る。
ピンチステムやボタンステムよりも規制インダクタンスが少なく高周波に向いているほか、真空管を小型化できるメリットがあるが、割れやすい。

チップ管


チップ管とは真空管から気体を抜いたりする直径の小さいガラス管のこと。
電極引き出し口を下として、真空管の上にチップ管があるものをトップチップ型という。
ステムにチップ管があるものをチップレス型という。
一部の小型マジックアイなどでは管の側面にあるものもある。

外形の種類


A管は球状の電球の形で、201-Aなどの真空管に代表される。

S管はいわゆるナス管と呼ばれるもので、UX201Aや282Aなどの真空管に代表される。1925~1930年代ごろに用いられた。
この頃からトップチップを廃止し、ステムからチップ管を引き出すチップレスのものが出現する。

ST管はS管に「肩」と呼ばれる段をつけたもので、この肩の部分に雲母板を接触させることで耐震性を向上させている。
807や6Z-P1などの真空管に代表され、俗にダルマ管と呼ばれることがある。1930~1940年代ごろに用いられた。

G管はST管のベースをオクタルベースにしたもの。

GT管は容器がまっすぐなガラス管に小型化され、ソケットはオクタルベースとなっている。
この頃からパンタムステムが使われ始める。1940~1950年代ごろに用いられた。

mT管は容器がさらに小型化され、ボタンステムを使ってある。ピン数は7ピンと9ピンの二種類がある。
チップ管は再びトップチップに変わった。

ニュービスタ管は容器が超小型な金属缶になり、真空中でろう付けするためにチップ管が本当にない。
6CW4などの真空管に代表される。

傍熱管と直熱管、酸化物陰極


直熱管は陰極にフィラメントを使い直接加熱するもので、主に電池管や高圧整流管、送信管などに用いられる。
フィラメント材料には主に酸化物陰極を塗布したニッケルリボンが用いられるが、
送信管や高圧整流管などにはタングステンやトリウムタングステンが使われる。
熱容量が小さいので立ち上がり時間が比較的短い。フィラメントの加熱に交流を用いるとハムノイズが加わるので、
小さい信号を扱う回路に使うとき、フィラメントの加熱には電池などの直流電源を使わないといけない。

また、フリッカ雑音はタングステン陰極、トリウムタングステン陰極、酸化物陰極の順に大きい。
つまり、タングステン陰極の真空管はノイズが大きい。

傍熱管は陰極とそれを加熱するヒーターが別になっているもので、陰極の加熱に交流を用いることができる。
陰極には酸化物陰極が塗布されたニッケル細管が使われる。
ニッケル細管を作るには、炭素鋼の棒を硫酸ニッケル水溶液に入れて陰極とし、厚いニッケルメッキを施した後引き抜き、必要の寸法まで引きしぼる。
マグネシウムなどの還元剤を添加すると電子放射が良好となるので、マグネシウムを真空蒸着したのち水素中で加熱して内部に拡散させる。
硫酸ニッケルは陽極にニッケル、陰極に炭素電極を使い、硫酸を電気分解すると作れる。
ヒーターにはタングステンやニッケルが用いられ、酸化アルミニウムが絶縁体としてコーティングされている。
http://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/1967/07/1967_0...

酸化物陰極はバリウムとストロンチウムの酸化物で、カルシウムの酸化物が添加されることがある。
使用温度は1050~1150Kで、電子放射効率は50~250mA/W、電子放出密度は250mA/cm2ほどである。
酸化物陰極を作るには、まずバリウムとストロンチウムの炭酸塩を、混合比が重量比で4:3から1:1くらいに
なるように混合してそれにメタノールを加え、瑪瑙の乳鉢もしくはボールミルで十数時間粉砕して微粉末にする。
またはバリウムとストロンチウムの硝酸塩をそれぞれ再結晶させて不純物を除去したものを同じく重量比で4:3から1:1くらいに混合し、
それを蒸留水に溶かし、さらに炭酸ソーダか炭酸アンモニウム水溶液を徐々に滴下して炭酸塩の沈殿を得て、蒸留水で十分洗浄した後
50℃以下でよく乾燥させてボールミルで1日ほど粉砕して微粉末を得る。
接着剤にはニトロセルロースを酢酸アミルに溶かしたものが用いられるが、
電着法を用いる場合は酢酸アミルの代わりにエタノールとジエチルエーテルの混合液を用いる。
この時の組成は Ba・Sr(CO3)2 1.8g、ニトロセルロース0.48g、エタノール20cc、ジエチルエーテル40ccで、
まずニトロセルロースをエタノールとジエチルエーテル混合液に溶かし、最後にBa・Sr(CO3)2を添加する。
電着電圧は100~200V、時間は5~15秒ほどである。
塗布厚は陰極面積の1cm2あたり5mgくらいである。
活性化をするときは定格の1.8~2倍のヒータ・フィラメント電圧で加熱し、1010℃ほどまで温度を上げて炭酸塩を分解し酸化物となす。
この時定格より少し高いプレート電圧をかけておき、プレート電流が流れてきたら電圧を定格以下まで下げ、安定するまで置く。
この活性化は30分ほど行われる。

にじでんし


固体の表面に電子(一次電子)が衝突すると二次電子が放出される。これを二次電子放射という。
このとき放出される二次電子の量を一次電子の量で割ったものを二次電子放射率といい、δで表される。
δは一次電子の加速電圧や入射角、固体表面の状態や構成物質によって変動する。
一般に仕事関数の小さい物質ほど二次電子の放射も大きく、
例えばバリウムのδは5.4で、セシウム複合層では8.5にもなるが、ニッケルは1.3、炭素では0.6ほどになる。
ガラス、水晶、雲母などのδはわずかに1より大きい。

二次電子放射を利用した真空管を二次電子管といい、
さらに一次電子源に熱陰極を用いたものを二次電子増倍管、光電陰極を用いたものを光電子増倍管という。
二次電子放射面にはニッケル板に薄く酸化マグネシウムを塗布したものや、MgO-Ag、Cs-CsO-Ag複合面などが用いられる。

ダイナトロン


ダイナトロンは二次電子放射を利用することで、特性曲線のある範囲において負性微分抵抗を持つ二次電子管。
また、二次電子放射によって負性微分抵抗を持つ特性のことをダイナトロン特性という。
主に発振に使われることが多い。

ダイナトロンは二次電子をどの電極から出すかによってプレートダイナトロンとグリッドダイナトロンの二つに分けられる。
プレートダイナトロンは三極管と同じ構造をしていて、プレート電圧がグリッド電圧より低くなるようにして使う。
グリッドダイナトロンはグリッド電圧がプレートより低く、カソードより高くなるようにして使う。

水車型グリッドダイナトロンはグリッドが板を斜めにして水車のように並べた形状をしており、
さらに管軸と平行に磁界をかけてカソードから出た一次電子がグリッドに斜めに入射するようにしてある。
これにより普通のダイナトロンよりも負性抵抗が顕著に現れるようになっている。

また、グリッドが二つ以上あるダイナトロンをプライオダイナトロンといい、同時に複数の周波数で同時に発振することができるので、
うなり発振器として用いられる。

プレートダイナトロンにおいて、プレートに並列共振回路を接続した時、
ダイナトロンの負性抵抗をρとすると、

|ρ| ≦ L / (CR)

を満たす時に発振する。発振周波数は以下の式で表される。

f = ( 1 / 2π ) * √( ( 1 / LC ) - ( R / 2L - 1 / 2ρC )^2 ) ≒ 1 / ( 2π√( LC ) )

ダイナトロンで高周波の発振を行うのは困難で、普通のものでは20MHz程度、
水車型グリッドダイナトロンでも150MHz程度が限界であるという。

光電管


仕事関数の小さな金属に光を入射させると電子が放出される。この時放出される電子を光電子という。
光電子を放出するための膜は光電陰極と呼ばれ、光電陰極を持つ真空管を光電管という。
また、X線によっても光電子が放出され、電離真空計の測定限界の原因になる。

一般にはナトリウムやカリウム、セシウムなどのアルカリ金属が光電陰極に用いられる。
ナトリウムやカリウムを使った光電陰極は、水素ガス中でグロー放電させることで感度を向上することができ、これを水素増感という。

銀板もしくは銀の蒸着膜を酸素中でグロー放電させて表面を酸化させ、その上にセシウム蒸気を反応させると非常に感度のいい光電陰極が得られ、これを銀セシウム光電陰極という。
銀セシウム光電陰極は可視光線から近赤外域に感度を持つため、暗視管などにも用いられる。

撮像管


撮像管は光電効果を利用して像を電気信号に変換するもので、初期のものにはイメージディセクタがあり、
蓄積方式によるアイコノスコープ、イメージアイコノスコープ(テコスコープ)、イメージオルシコン、ビジコンなど様々なものがある。

イメージディセクタ(解像管)は1931年にファーンスワースにより発明された撮像管で、光電面に像をむすび、そこから放出される光電子群を加速偏向し、
像分解孔を使って走査し、二次電子増倍管で信号出力をするものであり、蓄積方式ではないため感度が低く、フィルム送像に利用されたくらいであるが、
1960年代になって高速現象の研究用として復活している。

アイコノスコープは1933年にRCAのツボリキンにより発表されたもので、裏側に金属膜を蒸着した薄い雲母板に無数の銀粒子を作り、
その表面に酸素とセシウムを作用させて微小光電面とした、光電変換と電荷蓄積の作用をするターゲットを電子ビームで走査するもので、
これにより初めて屋外の景色の送像が可能となった。

イメージアイコノスコープはターゲットとして酸化アルミニウム粒子を塗布した金属板などを用い、光電面と電子レンズでその上に電荷像を蓄積するもので、
アイコのスコープより数倍感度が高くなっている。

アイコノスコープなどが外部光電効果を持つ光電面を用いているのに対し、ビジコンは内部光電効果を持つ光導電膜を使っている。
光導電膜には三硫化アンチモンが用いられている。

二極管と三極管


ガラス管の中に、その両端に導入線を取り付けた細いタングステン線を入れて、ガラス管の外から電流を通せるようにする。
そしてそのガラス管の内部の空気を抜いて真空にすれば、電球が出来上がる。(実際はもうちょっと複雑だけど)

こうして作った電球に電流を流せば、内部に入れた細いタングステン線(フィラメント)はジュール熱によって加熱され、白熱する。

次に、導入線を取り付けた金属板を入れた電球を作ってみる。この金属板(プレート)はフィラメントの近くにあるが、フィラメントには触れていない。
なので、プレートとフィラメントの間に電圧をかけても、普通は電流が流れないはずである。
しかし、フィラメントに電流を通じて白熱させると、プレートからフィラメントに向かって電流が流れ始めるのである。

フィラメントが白熱すると、フィラメントからは電子が放出される。電子は、負の電荷を持つ粒子である。
負の電荷を持つものは、クーロン力によって正の電荷を持つものに引き寄せられる。
なので、プレートがフィラメントよりも高い電位にあると、フィラメントから放出された電子がプレートにたどり着いて、
電流が流れるというわけである。

このとき、プレートがフィラメントよりも十分低い電位にあると、負の電荷同士は反発するので、電流は流れない。
これが二極管である。二極管はこのように整流作用を持つので、交流電力を直流にする整流器や、検波器に使われる。

フィラメントを十分に高温にして、プレートにかける電圧を0Vから徐々に上げていき、プレート電圧とプレート電流のグラフを書いてみる。
こうして描いたグラフからは、プレート電流がプレート電圧の1.5乗に比例することがわかる。

電子がフィラメントから出てきてプレートに到達する行程において、フィラメントから出た電子はすぐにはプレートにたどり着かない。
フィラメントから出てきた電子は負の電荷を持っている。負の電荷を持ったもの同士は反発し合うので、
フィラメント付近では電子が「渋滞」を起こす。このように空間に分布する電子により形成される電荷を空間電荷といい、
それによって電子が「渋滞」することを空間電荷制限という。
つまり、フィラメント付近の電子は、プレートに近い方の電子が先に行ってくれないと出てこれないわけで、
電子の速度がプレート電流の大きさに関係するようになるわけである。電子は周りの電界によって加速されるわけだから、
フィラメントを挟んでプレートの反対の位置にもうひとつプレートと同じような電極を追加して、その電極の電位をフィラメントより低くすると、
プレートからの電界が中和され、プレート電流が流れにくくなる。
さらに低い電位にしていくと、ついにはプレートが高い電位にあるのにごく微量な電流しか流れなくなる。

これが三極管である。そして、プレートと別に追加した二つ目の電極をグリッドと呼ぶ。

なぜグリッドというかといえば、板状の電極をフィラメントを挟んでプレートと反対の位置に置いただけだとプレート電流を制御する能力が弱いので、
網目(グリッド)状の電極をフィラメントとプレートの間に置く構造が一般的となっているためである。

この三極管の発明により、高い周波数の電気信号を能動的に増幅したり発振することが可能となり、無線通信技術は飛躍的に発達した。

真空管の三定数


三極以上の真空管の電気的特性を示すものとして増幅率、相互コンダクタンス、プレート内部抵抗の3つがあり、これらを三定数という。

増幅率は、プレートを定電流で駆動した際、プレート電圧の変化量をグリッド電圧の変化量で割った値で、単位はつかない。記号は μ で表され、ミューと読む。
プレートに無限大の抵抗値を持つ抵抗を接続して増幅を行なう際の電圧増幅率と等しいので、
例えばμが10の真空管ではどう頑張っても10倍以上の電圧増幅率は得られない。
四極管や五極管はμが数百から数千になるので、これらの真空管では相互コンダクタンスが性能指標となる。

相互コンダクタンスは、プレートを定電圧で駆動した際、プレート電流の変化量をグリッド電圧の変化量で割った値で、単位はジーメンス[S]。記号は gm で表される。
ジーメンスは抵抗の逆数であるので、古くは単位にモー[mho]が使われていた。これは抵抗の単位のオーム[ohm]の綴りを逆にしたもので、記号もΩを上下反転させたものだった。
gmはまた寿命の指標にもなり、真空管を連続稼働させてgmが30%減少するまでの時間を寿命とすることがある。

プレート抵抗は、グリッド電圧を一定にした際、プレート電圧の変化量をプレート電流の変化量で割った値で、単位はオーム[Ω]。記号は rp で表される。

これらの三定数はそれぞれ

μ = rp * gm
gm = μ / rp
rp = μ / gm

という関係を持っているので、三定数のうち2つの値が判明しているなら残りの1つは計算で出すことができる。

フィラメント電力と真空管の定数


理論的に、空間電荷領域では真空管の定数は電極構造と電極電流・電圧にのみ関係し、フィラメント電力は飽和電流にのみ関係するはずであるが、
直熱管においてはフィラメント電力を増加するとgmが変化してしまう。なんでだろうね。

エミ減


エミ減とは真空管のエミッション電流が定格より減少している状態、およびその現象を指す。エミ減になった真空管はgmが減少するので、出力が小さくなる。

エミ減の原因は陰極の種類によって様々である。
陰極の種類エミ減の原因
純タングステンフィラメントの蒸発(寿命)
トリウムタングステン真空度の低下、トリウムの蒸発(寿命)、定格外使用
酸化物陰極真空度の低下、酸化物の消費(寿命)、酸化物の剥離、定格外使用

初速度電流


カソードから放出された熱電子は運動エネルギーを持っているので、二極管のプレートにはプレート電圧が0Vでも微小な電流が流れる。
これを初速度電流という。三極管のグリッドは二極管としての要素を持っているので、グリッド電圧を0Vよりも十分低くしないとグリッド電流が流れる。

逆にこれを利用して発電を行うのが熱電子発電で、
たとえばソビエト連邦では太陽光発電を用いることのできない偵察衛星(Kosmos 1867など)などの電源に用いられた。

材料処理

脱脂


部品を手で触ると油脂がつくので必ず洗浄しないといけない。これにはアルコールのような溶剤を使えば良い。
この際、洗浄槽をいくつか用意しておいてだんだんきれいな溶剤を使っていくようにし、
一定数洗浄したら初段の溶剤を蒸留にかけ、洗浄槽の溶剤を順次初段の方に移して終段にきれいな溶剤を入れる。

電極などの処理


電極はガラス細工や溶接などで加熱されて酸化する場合がある。この酸化物を取り除くには様々な方法がある。

鉛を負極、電極を陽極として10~20%希硫酸中で電気分解すれば表面の酸化物が除去される。
然るのちアルカリで洗って中和してから蒸留水で洗って乾燥させる。この方法は電極の体積が減少する。

石英管に電極を入れ、これに水素ガスを通じて加熱すれば酸化物は還元される。
わずかな体積の減少が定格に影響するフィラメントの処理などに用いられる。

サンドブラストで除去する方法もある。

排気装置


排気装置は真空管を真空にするための装置類のことで、真空装置のほかベーキング炉と誘導加熱装置などを含む。

真空ポンプ


真空を作り出すには真空ポンプが必要となる。真空ポンプは粗引きポンプと主ポンプに分かれているのが普通である。
粗引きポンプには1段から2段式の油回転ポンプが使われる。これは中程度の真空を作り出し、主ポンプが動作するのに必要な背圧を維持するためにある。
主ポンプには1段から3段式の自己分留式油拡散ポンプが広く使われる。
古くは水銀拡散ポンプが用いられていたが、水銀の毒性と蒸気圧の高さから自己分留式油拡散ポンプの開発により姿を消した。
自己分留式油拡散ポンプは拡散ポンプの一種で、作動液に油を使い、自己分留機構を持つことが特徴である。

拡散ポンプは比較的低い蒸気圧を持った液体(作動液)をボイラで加熱し蒸発させ、その蒸気を真空の筒内に軸方向に噴出するように作ったノズルから噴出させ、
気体分子に運動エネルギーを与えて排気するものである。蒸気は凝縮してボイラに戻るようになっている。
拡散ポンプという名を持っているが、ラングミュアによりその動作の重要な点は実際には拡散ではなく凝縮であると解明されている。
しかし慣例によって拡散ポンプと呼ばれているし、凝縮ポンプという名を持つ動作原理の違うポンプが他にあるので拡散ポンプという名前の方が都合が良い。

作動液に油を使い始めたのは C.R.Burch によるものが始まりである。
油は精密に蒸留しても様々な蒸気圧の油が混ざる。分留式でない油拡散ポンプの問題はここにある。
高い蒸気圧の油ほど低温で蒸気になるが、高い蒸気圧の油は高真空側に逆流して真空度が下がる原因になる。
なので低い蒸気圧の油で動かしたいが、これは高温で蒸気になるので、
これを蒸発させようと温度を上げても低い蒸気圧の油ばかり蒸発して高い蒸気圧の油は一向に蒸気にならず、真空度も上がらない。
分留式ではないポンプではこういう理由で到達真空度に限界がある。
そこでノズルの先に蒸留塔を設け、蒸気圧の高い油はボイラに戻らないようにすることで到達真空度を上げることができる。
これが自己分留式油拡散ポンプの原理である。

多段自己分留式油拡散ポンプには2つないし3つのノズルがあり、順番に真空度を上げていくようになっている。
これは分留機構を使ってノズルの対応する真空度に見合った蒸気圧の油蒸気が出てくるようにするもので、つまり高い真空度を受け持つノズルは低い蒸気圧の油を出し、
低い真空度を受け持つノズルは高い蒸気圧の油を出すようになっている。これにより一桁ほど到達真空度を上げることができる。
自己分留式油拡散ポンプは K.C.D.Hickman により考案されたので、ガラス製の自己分留式油拡散ポンプをヒックマンポンプと呼ぶ。
ガラス製のものではヒーターはボイラの中に裸で浸したニクロム線に通電することで行っている。

油拡散ポンプの作動液には 2-ethyl hexyl phthalate ( C6H4(COOC8H17)2 , Octoilと呼ばれているもの ) や、アルキルナフタレンなどが用いられる。

ベーキング


真空ポンプで真空管を排気しただけでは足りない。ガラス容器や電極にはガスが吸着されていて、封じ切った後にこれらが出てきて真空度が下がるからである。
例えばフィラメントにタングステン線を使った電球を作って真空にして普通に封じ切った後、十分くらいフィラメントを点灯させれば管壁が真っ黒になり、じきにフィラメントが切れる。
しかし、封じ切る前に一回低温の炎で管壁をよく炙り、フィラメントに短時間通電してから封じ切ると電球は長持ちする。
管壁が黒くなるのは黒化といって、ガラスなどに吸着されていた水が蒸発してタングステンと反応し、タングステンが急激に蒸発する現象である。
このとき水は触媒として反応し消費されないので、フィラメントを灯し続ける限りこの反応は進み続ける。
封じ切る前に管内の部品や管球を加熱すると、吸着されていた水などが出てきてポンプに吸われるので黒化が起きないわけで、このように封じる前に加熱する工程をベーキングという。

ベーキングを行うには前述したようにバーナーで炙るなどの方法もあるが、ガラスを溶かしたり割ったりする恐れがあるので、
簡単な電気炉などを作って管球に被せて加熱するようにする。このときの炉内温度は軟質ガラスでは350~400度にする。
加熱時間は管球の大きさなどにより異なるが、小型のものなら30分ほどですむはずである。

電球の場合は管球の加熱とフィラメントの点火で大抵十分だが、真空管の場合はプレートなどの電極があり、これもガスを出す原因になるが、管球の加熱だけでは電極は加熱しきれない。
普通は誘導加熱や電子衝撃を使って排気を行う。ニッケルは1000℃くらいに加熱するが、長時間この温度に加熱すると電極が蒸発したり、輻射熱でガラスが溶けるのでよくない。
電極の加熱は短時間で高温にし、少し休ませてまた行うように、なるべく衝撃的に高温にして行う。こうすると電極の蒸発が抑えられガラスも溶けない。

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