IPUT電子工学研究会による様々な研究結果をおいておくところ

ゲッターとは


ゲッターは真空管の内部にあって、化学的または物理的に気体を捕獲して除去する部品です。
例えていうなら煎餅や海苔のパックに入っている乾燥剤と似たような働きをしています。
乾燥剤は水蒸気を吸収して煎餅や海苔が湿気らないように働きますが、ゲッターは水蒸気のみならず酸素や窒素とも反応し、
それらのガスを取り除いて真空管の動作に影響を及ぼすことのないように働きます。

真空管の中にガスがあるとなぜ困るかというと、真空管の中はカソードから放射された電子が空間を飛んでいて、
そこで電子がガス分子にぶつかるとガスが電離し、空間電荷による電子流の制御ができなくなります。
最初からガスを真空管内から全部排除できればいいのですが、どうしても電極やその他部品からはガスが放出され、
ポンプから切り離した後は真空度が落ちていきます。そこで使うのがゲッターで、これはあたかも微小なポンプのように働き、
部品などから出たガスを吸収し続けて真空度を高く保ってくれます。

ゲッターの種類


ゲッターには普通、反応性の高いアルカリ金属やアルカリ土類金属が用いられていて、
真空ポンプで排気しながらゲッターを電子衝撃や誘導加熱などによって蒸発させて使います。

1910年代の黎明期の真空管は五酸化二リンや生石灰が使われていましたが、
1920年代ごろからはマグネシウムが使われ始めました。
しかし、マグネシウムは蒸発させた時には強いゲッター作用を発揮するものの、
ガラス壁に付いてからはほとんどゲッター作用を持たなくなり、長期の真空度の維持には向かないことがわかり、
1930年代ごろからはさらに強力でガラスについた膜もゲッター作用を持つバリウムゲッターが使われ始めます。

最初は酸化バリウムを不活性ガス中でマグネシウム粉末とテルミット反応させて得たバリウムマグネシウム合金が使われましたが、
次第にマグネシウムばかり蒸発してバリウムがあまり蒸発しないことが判明したので、
1940年代ごろにはニッケル粉末を添加したケメットゲッタや、
アルミニウムでテルミットしたバリウムアルミニウム合金が使われるようになりました。

金属製真空管など、誘導加熱のできない真空管に使うゲッターとして、タンタル線またはジルコニウム線に炭酸バリウムと炭酸ストロンチウムを塗布し、
通電加熱で分解・還元・蒸発させるバタラムゲッタというものもできました。

ゲッターの自作


真空管自作の最初のうちはゲッターなしでやりましたが、ポンプの性能が悪くてすぐにダメになりました。
そこでマグネシウムゲッタを使った結果、真空度がかなり改善されました。
これにはマグネシウムリボンを短く切ってニッケル板で包み、プレートに溶接して電子衝撃で蒸発させました。

それからはマグネシウムゲッタを多用していたのですが、やはり真空度の低下が問題になってきて、
バリウムゲッタが必要になってきました。

バリウムゲッタを作るにはバリウム化合物から単体のバリウムを取り出さないといけませんが、
単体のバリウムは反応性が高くて大気中で扱うのが難しくなります。
マグネシウムやアルミニウムと合金化すれば大気中でも安定するんですが、これらの合金は加工性がない上、
不活性ガス中で反応させる必要があるので設備費用が莫大になってしまいます。

そこでバタラムゲッタの原理を応用して真空管内でバリウムを還元しようと思っているのですが、
これがなかなか難しいわけです。
まずアルミ箔に炭酸バリウムを包んでさらにニッケル板で包み、これを真空管内で誘導加熱しました。
炭酸バリウムは熱分解してテルミット反応も起こったのですが、反応熱が大きすぎてゲッターが溶融して落ち、挙句バリウムは飛ばずじまいでした。
バタラムゲッタの還元剤にはジルコニウム線が使われていますが、これは非常に高価で、1mあたり4000円以上します。
そこでチタンを使おうと思って実験しました。
8mm角に切ったチタン板に、酢酸アミルにニトロセルロースとバリウムとストロンチウムの炭酸塩を混ぜて塗布し、真空管内で誘導加熱しました。
しかし加熱がうまくいかないし塗布した炭酸塩も剥がれるだけで、まったく飛ばずに終わりました。

今のところ、次に考えているのはタングステン線にバリウムとストロンチウムの炭酸塩を塗布し、
それをニッケル線の弓に弦として溶接して誘導加熱するというものです。うまくいけばタングステンが還元剤になってバリウムが飛んでくれると思うのですが...

2020/10/9
CiNii にて、ゲッタに関する論文を古い順に検索していったところ、チタン線を用いたバリウムゲッターについてという論文を発見しました。
タンタル線が1m1200円、ジルコニウム線が1m4500円なのに対し、チタン線は1mあたり500円程度と安価であるので、この研究結果を使用できればバリウムゲッタ技術の獲得に大きく近づくはずです。


つづく...

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu

メニュー

メンバーのみ編集できます