IPUT電子工学研究会による様々な研究結果をおいておくところ

なまちくをじさく


鉛蓄電池というのは電極に鉛板を使い、電解液に希硫酸を使った二次電池でござる
構造がめちゃ簡単なので、自作にチャレンジしたいのでござる

そもそもの動機


送信機では、自作の真空管で無線機を作るのを目指してます。が、
プレート電源に使う電池の問題が解決できていません。

原作(Dr.STONE)どおりにマンガン電池800個な!っていうのもいいんですが、
電圧が高いので使用個数が多いし、送信機なのでプレート電流も多いし、というわけで、
一次電池を使うのはランニングコストがかさむと考え、小容量の鉛蓄電池を開発し、
それをプレート電源に使おうと考えたのです。

鉛蓄電池はマンガン電池より3割ほど起電力が高く(2V)、電極材は安価な鉛で、
構造も簡単で、比較的サイクル寿命が長いのが利点です。

しかし電解液に硫酸を使う湿電池なので取り扱いに注意が必要で、
電極が鉛でできているので重いというのが欠点です。

まあ重量の問題は大したことでないのでいいんですが、硫酸を使うのが少し厄介です。
硫酸は不揮発性の酸で、希硫酸でも放置すると濃縮して周りを腐食します。
しかも電池の特性上密封が難しいので、どうにかして硫酸がこぼれないようにしないとダメです。
そして硫酸は地味に高価です。

これらの欠点を上回る利点があるか調べるために、まずは実験してみましょう。

実験



試作した鉛蓄電池

百均でガラス製の小瓶を買ってきて、それを容器にします。
コルク栓には穴を開けて電極リード線を通し、コルクに電解液が染み込まないようにロウでコーティングし、
同時にリード線を固定密封します。
電極には厚さ1mmの鉛板を幅10mm長さ25mmに切り取ったものを使い、
これに同じ板から切り取った2~3mm幅のストラップをリード線としてハンダしました。
電解液にはバッテリーから取り出した硫酸を使います。

初充電は 3.5V 0.08A で半日行いました。
最初は電極電圧が3.3Vでしたが、次第に3Vまで低下しました。が、それより下がる気配がしません。
とりあえず充電をやめて電圧を測ってみると2.1Vほどあったのですが、測っているうちにどんどん下がっていきます。
負荷として赤色LEDを灯してみましたが、1分ほど経ったところでLEDが暗くなり、電圧は1.7Vまで落ちました。

4Ahの鉛蓄電池を分解した時の電極板寸法は、片方の電極で100cm2ほどありました。
試作の鉛蓄電池は2.5cm2なので、仮に電池容量が面積に比例するとしたら40分の1の0.1Ahで、
LEDの消費電流を20mAとしても数時間は灯っていてくれるはずなのですが...

初充電のあとは充放電サイクルを繰り返すと容量が増えて安定するというのをみたので、充電と放電を繰り返してみました。
しばらく電圧を測定してみると、負荷を繋いでから40秒ほど2V安定したのち、急に電圧が1.7V程度に落ち、
そこからは安定して4時間ほど放電を続けることができました。
このことから、2Vで安定している期間は充電後の一時的な分極で、そのあとの1.7V台の特性は硫酸濃度における平衡電圧でないかと考えました。
要するに硫酸の濃度が低いのかもしれないということです。が、比重計を持ってないので濃度が測れません。あとで比重計を買います。

そういえば別のバッテリーから取り出した硫酸があることを思い出し、電池を放電させてから硫酸を入れ替え、充電してみました。
充電が終わるまでシロウリの漬物を食べてたんですが、その途中で電池を逆接してたのに気がついて、あわてて止めました。
正極の酸化鉛は剥げてしまい、負極が酸化してしまいました。なんとか再生できないかと考え、とりあえず電極表面を磨き、組み立て直しました。
そのあと極性を間違えないようにして再び充電したのち、負荷をつないで放電させて様子を見てみました。
するとどうでしょう、今までよりも高い電圧を長く維持できるようになっていました。
具体的には、赤色LEDをつないで1.8Vを15分間維持できました。今までは1.8V以下になるまで1分30秒ほどしかなく、容量が10倍近くなったようです。
しかし、一度にたくさんのことが変わってしまったため、どれが正解なのかよくわかりません。でもヒントは得られたので、
初充電の前に電極を磨くとか、硫酸の比重を測ったり入れかえてみるなど、さらなる実験を進めていこうかと思います。


市販の鉛蓄電池の性能が良いのは先人の研究成果によるもので、こうやって自分がちまちま実験しているのはちょっと合理的ではないと思い、
鉛蓄電池の論文を探したり、色々な資料を当たっていきました。

電気化学便覧 p.429 には、鉛蓄電池の反応に関係する物質の単位電気量あたりの質量が掲載されています。
以下にその内容を抜粋すると、
物質Ahあたりの質量
二酸化鉛4.46g
3.87g
硫酸鉛5.66g
硫酸3.66g
0.67g

の通りです。
これによると、0.1Ahの容量を達成するのに必要な二酸化鉛は約0.45gで、活物質利用率を30%とすると1.5g必要となる。
試作の鉛蓄電池の正極に0.1mmの厚さで二酸化鉛の皮膜ができていると仮定すれば、その体積は約0.05cm2で、
これに二酸化鉛の密度9.38g/cm2を掛ければその質量は約0.47gである。活物質利用率を30%としたらこの場合の容量は0.03Ahである。
実際にはもっと皮膜が薄いのかもしれないけれど、とりあえず鉛板をそのまま化成するのでは表面積あたりの容量がかなり低くなることがわかった。
実用の鉛蓄電池ではこれを解決するため、ペースト式といって鉛の格子に鉛や鉛の酸化物を希硫酸で練ったペーストを充填して作った電極を使っているようです。

1919年(大正八年)の、岩城 純一 理学士による演説予稿では黎明期の鉛蓄電池のことについて触れられています。
これを要約すると、次のようになります。
プランテ氏は、接触していない二枚の鉛板を電極として希硫酸に浸して充電した時、陽極表面は二酸化鉛に覆われ、陰極表面は空気中で作られた酸化皮膜が還元されたのち、盛んに水素ガスが発生するのを観察した。そしてその両極を接続すると、短時間だけ電流を得られた。 プランテ氏は電池を放電する前、ある時間電池を放置すると、陽極の二酸化鉛はその下にある鉛と局部作用を起こして電流が生じなくなって、さらに十分に電池を放置してからさらに充電するときは初めの充電と異なり、陰極には空気中で作られる酸化膜とは異なる多量の酸化物および二酸化鉛が生じ、水素ガスがこれらを還元するまでの時間、そして、陽極において還元された二酸化鉛の膜あるいは海綿状鉛の膜を酸素ガスが酸化するまでの時間が長引くことを発見した。 (プランテ氏は、電池が放電するとき、陽極の二酸化鉛は海綿状鉛に、陰極の海綿状鉛は二酸化鉛になると考えていた。) 2回目の放電の時間は第一回の放電の時間よりも長い。このことから、プランテ氏は電池を充電した後これを放置して、次に放電するという操作を何回も繰り返すことで次第に容量の大きな電池を作った。 これを「純プランテ式化成法」というが、これによって製品を作るには非常に長い時間と大量の電力を要するので、 この後「速プランテ化成法」が発明され、数日ほどで化成を完結することができるようになった。

つまり、電池を充電してから放置し、放電させたらまた充電するというのを繰り返せば、容量が大きくなって安定するらしいとのこと。

機械式のDCDCコンバータを作ってA電池からB電源を作る方がいいような気もしてきました...


電極板の構造にはプランテ式やペースト式の他にチュードル式というものがあります。
これは厚い鉛板に深い溝をたくさん掘ったような形をした電極で、プランテ式より電気容量が大きく、
そしてペースト式より信頼性が高いとされます。チュードル式電極を作るには、まず鉛基板を鋳造で作り、
次に化成液中で電気分解を行って二酸化鉛の層を作り、それを希硫酸中で還元して海綿状鉛にし、
最後に新しい希硫酸中で充電を行って再び二酸化鉛の層を作るという方法を取っているようです。

つまり途中で電池を逆接して充電してしまったのは、このチュードル式電極の化成法に似た手順を踏んだようです。

あきらめ


色々研究しましたが、どうも自己放電がひどく、容量も少なすぎて、とても実用に耐える蓄電池を作ることができませんでした。
なので、B電源は回転式のDCDCコンバータでA電源を昇圧して作る方式に切り替え、鉛蓄電池の研究は一旦停止します。

再び!鉛蓄電池


鉛蓄電池の製作に失敗して2年近く経ちましたが、やはり鉛蓄電池を作りたいので、実験し直しました。
市販の鉛蓄電池は純粋な鉛板が原料ではなくペースト式と言って、鉛の格子に鉛粉をつめて化成しているというのは先述した通りですが、これを実験することにしました。


まず、厚さ1mmの鉛板に6mmの穴あけパンチで穴を開けて格子状にしたものを2枚用意し、それに四酸化三鉛(鉛丹)の粉末を10w/v%の希硫酸で練ってペースト状にしたものを詰め込んで、
日の当たらない室内で1週間ほど乾燥させた。10w/v%の希硫酸 100ml をビーカーにとり、それに乾燥させた2枚の電極を漬ける。このとき電極は褐色になるが、これはいわゆる「濡れ色」であると考えられる。

電極をそれぞれ正極と負極として、0.2Aの定電流電源を繋いで化成を行う。数時間程度化成を行うと、次第に正極は褐色から黒色に、負極は灰色になる。すなわち二酸化鉛と鉛の色である。
こうして作られた鉛蓄電池は、ただ鉛板を希硫酸につけて作った鉛蓄電池と比較して、内部抵抗が低く、容量も大きく、自己放電も少なくなった。


出典


守本 昭彦, 臼井 豊和 「酸化鉛 (IV) の合成と鉛蓄電池」『化学と教育』43巻, 12号 1995.12, p. 762-763

松田好晴, ほか「電池」(電気化学協会編『電気化学便覧』第4版, 丸善株式会社, 1985), p.428-435

岩城 純一 『鉛蓄電池に就きて』, 電気学会, 1919

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