IPUT電子工学研究会による様々な研究結果をおいておくところ

ロッシェル塩の電気音響的応用


ロッシェル塩(ロッセル塩、セニエット塩)は酒石酸カリウムナトリウム(NaKC4H4O6・4H2O)のことである。
この結晶は水晶の数百倍ほどの強い圧電効果を呈するので、マイクロホンやイヤホン、スピーカーやピックアップなどに応用されている。
しかし、ロッシェル塩は機械的にもろく、潮解しやすいうえ、-18℃から23℃までの間でしか強い圧電効果が現れないので、
現在ではチタン酸バリウムなど他の強誘電体に取って代わられている。



ロッシェル塩の結晶は上図(甲)の形に成長する。この結晶から、図に示すようにPQYXの形に平行板を切り出し、
a軸の方向に電場を加えると、(乙)に示されたようにb軸およびc軸と45°をなす方向に歪みを生じる。
ここでYX面を固定すると(丙)のように辷り歪みを生じる。この結晶板を二枚用意し、薄い金属箔を結晶板ではさみ、
さらにそれを二枚の金属箔ではさんで、外側の箔を接続して、内側の箔と外側の箔を電極として電圧をかけると、
(丁)のようにねじり歪みが生じる。逆にねじり歪みを与えれば、電極の間には電圧が現れる。
この形の素子はピックアップに応用されるほか、
一方の対角を固定し、もう一方の対角に振動板を取り付けてクリスタルイヤホンに応用される。



また、上図(甲)のように平行板を切り出せば、(乙)のように伸縮歪みが生じるので、
先ほどと同じように電極をつけて重ねて電圧をかければ今度は湾曲歪みが生じる。
そして、湾曲歪みを与えれば同じように電極の間に電圧が現れる。
この組み合わせをバイモルフ(bimorph)といい、マイクロホンやイヤホンに応用される。

また、ロッシェル塩は水晶振動子と同様に発振回路に使うことができるが、安定性が悪いので実用には用いられない。

結晶の析出・加工など


結晶を作るときは40℃程度の飽和水溶液に種結晶を入れ、出来るだけ長い時間をかけて室温まで冷却して析出させる。
析出の際、コの字型のガラス製の器を種結晶にかぶせることで、結晶の成長する形を制御できる。
目の細かな布を湿らせて平らな面に広げ、その上で結晶をこするとよく削れる。バイモルフに使う結晶は、薄ければ薄いほど出力が大きくなる。
電極を貼り付ける際は、貼り付ける面を磨いて平らにしておく。接着剤にはセラックニスが使われるが、測定ではワセリンが使われることが多い。
電極には、錫箔やアルミ箔が使われる。

実践



ロッシェル塩の結晶粒
1日目

さて、ロッシェル塩について学んだので、ロッシェル塩を使ったマイク兼用のスピーカーを作ってみましょう。
結晶を作る方法としては、温度降下法や溶媒蒸発法、密度拡散法などがありますが、ロッシェル塩は一般に温度降下法で作ることが多いようです。

以前に作ったロッシェル塩水溶液が残っていたので、これにロッシェル塩を追加して使います。
200mlのビーカーに移してロッシェル塩を追加したのですが、たくさん追加してもなかなか飽和しません。
撹拌しては追加してを繰り返してようやく飽和したわけですが、このまま放置しても温度は低いままので結晶は出ません。
なので30℃くらいにレンジで加熱し、再びロッシェル塩を追加しました。
約150mlの水に合計で250gくらいのロッシェル塩が溶けたようですが、正確な量はわかりません。

まずは種結晶を作るため、30℃の飽和溶液を普通に放置して結晶を析出させます。
このようにして析出させると小さい結晶がたくさん出るようです。
二日目



夜に飽和溶液を調製し、翌朝の昼まで放置しました。ビーカーの底を確認すると小さな結晶がたくさんできていました。



これを箸で取り出し、形の綺麗なものを選んで、そのほかはビーカーに入れたままにします。
綺麗なものは水気を拭き取りティッシュペーパーに包み、乾燥剤と一緒に袋に入れて保管しておきます。

そうしたら、ビーカーに入った溶液をレンジで再度温め、結晶を全部溶かします。
結晶がすべて溶けたら、ビーカーを発泡スチロールの箱に入れてゆっくり冷まします。
夕方になり、溶液が少し冷めて過冷却状態になったので、保管しておいた種結晶をひとつ入れて結晶を成長させます。
三日目

夜にビーカーを見てみたら結晶がちっとも成長していないので、ビーカーを軽く小突いてみたのですが、
翌朝見てみると小さな結晶が大量にできてしまい、種結晶が損傷してしまいました。
1センチ角の結晶板を一枚切り出すくらいはできそうなので、とりあえずこれを回収して初めからやり直します。
四日目

何回か結晶を作っていくうちに、色々と改善するべきところが見えてきました。
まず、種結晶を乾燥状態で保存するのは問題があるということと、飽和液は濾過した方が良いということです。
最初に種結晶を作って、水分ををティッシュペーパーで拭き取って保存したのですが、この結晶を種にして結晶を成長させると、
その結晶の中に種結晶の形の白い筋が入ってしまいます。この筋は電気的特性に問題を起こすものでないと思うのですが、
筋に沿ってへき開を起こしやすくなります。これは種結晶を乾燥させるときに表面に微小な結晶ができるのが原因だと思われるので、
種結晶は空気中ではなくロッシェル塩の飽和水溶液中にて保存した方が良いかもしれません。
そして、結晶を作るための飽和液は、攪拌や加熱の際にどうしても埃が入り、それを核として他の結晶ができる原因になるので、
飽和溶液を加熱して結晶を全て溶かしたのち、一回濾過するといいかもしれません。


出来上がった結晶
五日目(9/27)



加熱した飽和溶液を濾過してから種結晶を入れて成長させたら、大きな結晶が得られるようになりました。
それはいいんですが、結晶にヒビが入っています。板を切り出すとそこから割れるので、結局ちいさな板しか作れなさそうです。
どうしてヒビが入るんでしょうかね。もしかしたら種結晶を寝かせて成長させたのが原因かもしれません。
結晶を立てて成長させたら変わるかもしれません。
10/11

大きな結晶をそのままずっと飽和溶液に浸して、溶媒蒸発法の要領で結晶を成長させたらどうなるか試してみました。
ひとまわり成長していたほか、新しいくもりやヒビは入っていません。温度降下法は家庭でやるのにはあまり向いていないのかもしれません。

まとめると、
  • 種結晶は温めた飽和溶液を放置して温度降下法で作る
  • 種結晶は常温の飽和溶液中に密閉して保存する
  • 結晶の成長は常温の飽和溶液中にて溶媒蒸発法を使って行う

あたりを心がけると綺麗で大きなロッシェル塩の結晶ができるかもしれません。

つづく

クリスタルマイク?




そういえば、幼稚園の時に遊んでた電子ブロックに、クリスタルマイクという名前の部品が入ってるのを思い出しました。
あの時は確か、スピーカーと間違えてつないで音を出してたような気がします。探したら出てきました。



カバーを外すとアルミ箔の振動板とアームを取り付ける接着剤のようなものが見えました。
ロッシェル塩を使ったものである可能性は高いと思いますが、もとに戻せないと思うのでこれ以上分解するのはやめておきます。

試しにスマートフォンの音声出力をつないでみたら、ちゃんと音が出ました。

出典


岩田 久吉, 中野 栗夫 『電氣磁氣學應用篇』, 日本出版社, 1943, p.312-313

高木 昇, 中山 辰雄 『ロッシェル鹽結晶の誘電率』, 電気学会, 1940

釜萢 善一, 上關 榮藏, 三館 薫平 『壓電子として使用するロッシェル鹽結晶體製造方法の改良に就いて』, 電気学会, 1942

三井 利夫, 『ロッシェル塩』, 日本物理学会, 1975

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