IPUT電子工学研究会による様々な研究結果をおいておくところ

さらなる深みへ


真空管製造を始めてからもう2、3年が経ちますが、いまだにバルブは手吹きだしステムも手作りです。
おかげで真空管を一本こさえるのに丸一日かかってヘトヘトになります。しかも歩留まりが悪くて大抵不良品が出来上がります。
簡単な三極管を片手で数える程度作るならこれくらいはまだ問題にならない....いや、正直キツイのです。
これから先のプロジェクトでは三極以上の真空管、しかも性能が良くて品質が安定したものが大量に必要になりますが、
こうなるともう部品を全て手工芸でやっているのではあまりにも非効率すぎます。

バルブを型も無しに手吹きで作ると形はもちろん長さや直径がバラバラなものができて、せっかく作った電極が引っかかって封じられないようなことが起きます。
ステムを手作りするとスローリークとかクラックの不良が多く、せっかくバルブに封じたのに真空にならないことが起こります。
バルブに電極を封じるのを手作業でやると加熱の具合が悪くてヒビが入ってダメになることがあります。
そんなこんなで歩留まりは2割程度と非常に悪く、新しい真空管の試作や実験などもうまく進みません。
さらにグリッド等の電極の製造も簡単な巻き芯程度の治具しかない状態なので、性能の良くて安定した品質の真空管が作れません。

そんな状況を打破すべく、真空管の部品の製作を機械化することで、品質を安定させて歩留まりの向上を図ることにしました。
機械化は歩留まりに対する影響の大きい部品や工程から始めていきます。
歩留まりに対する影響は概ね、ステム製造、バルブ封じ、バルブ吹き、の順に大きいので、まずはステム製造を機械化します。

ステム製造の機械化


ステムというのは英語で幹の意味で、時の如く真空管の構造の根幹となるものです。
というのも、真空を保ちつつ電流を導入し、電極を機械的に支えるという役割を持っているのです。これらは真空管にとってどれも欠かせないものであり、
ステムの不良は真空管に致命的な影響を与えます。自身の真空管製造の中ではこのステムの不良が非常に多いのですが、
どうしてこんなに多いのかといえば2つほど理由があります。まず1つ目はガラスに金属を封じていることで、2つ目はガラスに歪の残りやすい形状であるということです。

ガラスは張力に弱いので、熱膨張係数の異なる金属を封じると普通は割れてしまいます。そこでデュメット線という特殊な合金線を使います。
これはガラスと近い熱膨張係数を持っているほか、熱膨張の差をある程度吸収する性質を持っていて、さらにガラスとよくなじむので、ガラスに気密に封じることが可能です。
(このようにガラスに封じて電流を通過させる金属線を導入線といいます)

しかし封じる際に温度などの条件が悪いと導入線の表面に長手方向の筋ができて、そこを伝って真空が漏れます。他にも導入線が過熱するとその成分がガラスに拡散し切って逆になじまなくなります。
このような不良は加熱が足りなくても加熱しすぎても起こるので、工程を機械化して加熱量を一定にすることで歩留まりを向上させる必要があります。 
さらに、金属はガラスよりも熱伝導率がよいため、導入線を封じたところを急激に加熱すると割れます。バルブの封じの際に導入線の部分が急に加熱されるので、この時に割れるわけです。
これはガラスに歪みがあると特に顕著です。これを解決するにはフレア部と導入線が封じてあるところを物理的に離せば良いのですが、そうするとバルブ全長が長くなって不都合が起きます。
もしくはバルブ封じの際に余熱と徐冷を慎重にやることで回避できますが、時間的コストがかかるほか電極が酸化する恐れがあります。

ステムはガラス管をフレアしてさらにつまんで導入線を封じるなど大胆な変形を行うため、歪が発生しやすいです。特に導入線の部分はその肉厚が厚すぎると割れやすくなったり、
圧着の力が足りないと不良になります。さらにフレアというのは張力に弱い構造で、内側の管だけ加熱されると外のフレアは膨張しないため、ヒビが入ってしまいます。
これはフレアのテーパー角度を小さくすれば解消できますが、ステムの全長が長くなってしまいます。ステムの歪はバルブ封じの際のクラックの原因となるので、除歪は必須です。
今まではバーナーを使って手作業でやっていましたが、電気炉で行うことにします。

まとめると、
ステムに導入線を封じる機械を作る
ステムを電気炉で除歪するようにする
という改善を行います。

バルブ封じ


次に改善するのはバルブ封じです。バルブ封じは真空管製造の峠で、これをうまくできれば後は排気作業だけで終わりですが、ここで破損する真空管が非常に多いです。
理由はステムの過熱などが主なので、ステム製造を機械化すればこっちの歩留まりも向上するでしょうが、それでも山道が少し楽になるくらいなので、
これも機械化してバルブとステムをセットしスイッチを入れたら後は機械の前で腕組みしてるだけで封じが終わるようにして、山をひとつ崩して整地にしてしまいましょう。

バルブを機械で封じるのは、ステムにバルブを被せて回転させ、ステムのフレアの部分をバーナーで加熱し続ければよいです。
こうするとステム周りのバルブが軟化して重力で下がり、径が小さくなってフレアに溶着します。
そのまま加熱を続けるとフレアより下の部分は重力で伸び続け、やがて極限まで薄くなって焼き切れるのでちょうどきれいに仕上がるわけです。

ガラスを吹く機械


さらにその次に機械化するのはバルブ吹きです。バルブは真空管の容器となるもので、これもガラスでできています。
バルブを吹くというのはガラス管を回転させ続けてバーナーで加熱し、軟化させたらガラス管に吹きを入れればできますが、
それだけではただの玉になるので、それを長手方向にどんどんやっていって最終的に直径の大きいガラス容器を得るという工程になります。
これを手作業でやっているものですから、軸がぶれたり曲がったり直径が小さくてステムが入らないとか、バルブが短くて電極がつっかえるとかそういう問題が起きます。
それを解決するにはこれを機械化して、ガラス管は機械で回転させてそれにグラファイト製の型を当てがって吹けばよいわけです。

バーナーの問題


さて、ガラス細工を機械化するのはいいですが、それに必要なバーナーがないではありませんか。
ガラス細工に使うバーナーは一本数万円するので機械に何本もつけるわけにはいきませんし、調整が面倒です。
そこで安価で調整の簡単な機械用バーナーを作ってしまいます。
ただガスは危険なものなので、十分な研究が必要です。

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