国立科学博物館に展示されている高柳式テレビジョンのレプリカ。
走査線数は40本、フレーム周波数は10Hz。
ブラウン管に画像を表示できることはブラウン管の応用で述べた通りだが、それをもっと深く書いていく。
テレビというものはとても素晴らしい技術で、20世紀最大の発明といっても過言ではないと思う。
それまでは遠くのものを見るとしても写真電送機などで静止画しか送れなかったのに、
テレビの開発により、遠くの景色をリアルタイムに映像で楽しむ事ができるようになったのである。
テレビはたったひとりの天才によって発明されたものではなく、
様々な地域の技術者や科学者が未来の装置を実現するべく長年努力した結果の大作である。
そしてその普及により、世界全体のエンターテインメントを革新した。
本当に、すごいものだと思います。
映像信号のケーブルは今日ではもっぱらHDMIとなっているが、薄型テレビのほとんどはまだアナログビデオ信号をサポートしている。はずなんだけどなあ。
テレビに機器をつなげるとき、赤と白と黄色の三本のケーブルで繋ぐはず。そのうち赤と白はそれぞれ右と左の音声信号で、映像信号は黄色の1本だけで送っている。
子供の時はこれが不思議で仕方なかったが、今では何もわからんくらいになった。この信号の規格はとても緻密に練られていて、集合知の粋を集めたものと言えるだろう。
映像信号の規格として日本およびアメリカで採用されたのはいわゆるNTSCと言われる方式で、今回述べるのはそれについてである。ただし、カラーについては扱わない。
これは実際にブラウン管に映像を映したところの拡大写真で、走査線が見えている。
使用したブラウン管は5インチのオシロスコープ用のもので、型番はD13-480GH。
NTSCのテレビは1秒間に30コマの画像を次々に表示して映像としている。そして、1枚の画像は525本の走査線からなっている。
しかし、1秒間に30コマ、つまりフレーム周波数が30Hzでは人間の目のフリッカー融合周波数よりも低いため、画面のチラツキが目立ってしまう。
そこで飛越走査という方法が用いられる。フレーム周波数は60Hzにしておき、フレームあたりの走査線数は262.5本とし、
第1フレームでは画面の左上から、第2フレームでは開始位置を真中の上にずらしてから走査を始める、というのを繰り返すことで、
擬似的に画面上の走査線数を525本にしている。 こうすると水平周波数は変わらず15750Hzのままで、フレーム周波数は30から60に上がり、チラツキは軽減される。
ちなみに「テンション上がってきた」という字幕とともにイチロー選手が荒ぶりながら分身したように見えるあの有名な画像が出来上がったのはこの飛越走査が原因である。
つまり、飛越走査の間にイチロー選手が大きく動いてしまったせいで、その前後の画像が細切れになって1枚に合わさってしまったのである。
このような現象はイチロー選手以外であっても、動きの大きな映像の1フレームを切り取ることで再現できる。
映像信号に含まれる信号は、どれだけの周波数帯域を持ちうるかを実際に考えてみよう。
まず、テレビの画面に映される画像の画素数を考えてみる。
NTSCでの走査線数は525本なので、縦方向の解像度は525ピクセルと考えられる。
縦方向も同じ解像度を持つとすれば、画素数は
525^2 = 275625 ピクセル
となる。
ただしこれはアスペクト比が1:1の場合で、実際に使われているアスペクト比(4:3)を適応すると、
275625 * (4/3) = 367500 ピクセル
の画素を持つ。
いちばん高い周波数が出るのは、隣り合った画素それぞれに白と黒が映っている縞模様の場合で、
その場合は最高周波数は画素数の1/2になる。全部の画素を1秒で走査するとすれば、その最高周波数は
367500 / 2 = 183750 ≒ 183 kHz
となるが、テレビでは画像が1秒間に30コマ送られてくるため、さらに30を掛けて
183750 * 30 = 5512500 ≒ 5.5 MHz
が得られる。しかし、水平走査が終わった後の帰線時間などを勘定に入れると、
映像信号のうち実際に画像の情報が入っているのは 78% くらいなので、これを掛けると
5512500 * 0.78 = 4299750 ≒ 4.3 MHz
となるので、映像信号は最高で4.3MHzの周波数を含む事になる。
つまり、映像信号を増幅する際は、60Hzから約4MHzまで一様な増幅率をもつ広帯域増幅器を使わないと映像の質が劣化することになる。
さらに映像信号には直流成分も含まれるため、増幅器の結合にカップリングコンデンサを使うと直流分が失われ、
映像信号全体の電圧が信号の平均値によって変化するため、映像の平均の明るさによって全体の明るさが変化してしまう。
具体的にいうと、暗い部分が多い画像は全体的に明るくなり、明るい部分が多い画像は全体的に暗くなる。
このような事態を防ぐには、上の図のように、カップリングコンデンサの後に直流再生回路を設けて、直流分をもとに戻すことで改善される。
直流再生回路はカップリングコンデンサの後にダイオード(または二極管)を繋げることで実現できる。
出力が負電圧のときはダイオードが導通してコンデンサが充電されるので、全体の電圧が信号の平均値で変化しなくなる。
ラスターをブラウン管に表示させるためには、垂直に60Hz、水平に15750Hzのノコギリ波を入れて、しかも飛越走査をしないといけなくて.... と面倒なことは考えなくて良い。
放送局や映像機器から送られてくる映像信号には、それを自動で行うための同期信号が入っているためである。
同期信号は負のパルスとして映像信号の合間に入っていて、それを分離して微分回路と積分回路に通すと、それぞれがもう水平と垂直のトリガー信号になるので、それをノコギリ波発振回路に入れれば良い。
TODO
MW-22-16 9インチ電磁偏向ブラウン管。
現代ではブラウン管が単体で売られていることは少ないが、eBayなどで見つけることはできる。
ブラウン管の選定を行う上で、電磁偏向のブラウン管を選ぶ際については1つ注意点がある。電磁偏向ブラウン管用の偏向コイルは手に入りにくい上、自作も困難であるという点である。
電磁偏向ブラウン管の場合、偏向コイルが無いとテレビは成り立たないので、入手の見込みがない場合は電磁偏向のブラウン管はやめておいたほうがいい。
なお、ジャンクの白黒ブラウン管テレビを入手したというようなことならコイルを流用できるので良い。ただし、カラーブラウン管は白黒ブラウン管よりも高い電圧が必要なので、作るのが困難になる。
さて、今回はとりあえず静電偏向ブラウン管で話を進めていく。
静電偏向ブラウン管は像が緑色で暗く、画面サイズも3~5インチまでしか見つからないが、扱いやすいしそれなりに手に入りやすい。
eBayでは、ソ連製などのブラウン管が比較的安価に手に入る。
ブラウン管を選ぶとき、まずはデータシートが見つかるものを選ぶべきである。
良さそうなブラウン管を見つけたら、型番+datasheet のようなキーワードでGoogle検索し、データシートを見つける。
データシートにはブラウン管の内部結線が書かれている。この内部結線をみて、偏向電極が4つ全て独立して出ているものが良い。
3AP1や913などのブラウン管はピン数削減のため、2対ある偏向電極の片方2つとアノードが接続されており、テレビに使うと画面が台形に歪む。
これらのブラウン管は簡単なオシロスコープ用として設計されている。
今回は、3KP1というブラウン管を使ってテレビを作ることを考えていく。
上の画像は同期分離に不具合があるテレビ画面。
直流再生を行わないまま同期分離するとこうなる。
同期分離回路は映像信号の中から同期信号だけを取り出し、ノコギリ波発振回路に入力するトリガー信号のもとを作る回路である。
この回路はテレビの中で2番目くらいに重要な回路で、映像増幅回路が完璧でも同期分離がうまく働いていないと絵が流れたり崩れたりして、何が何だか分からなくなる。
上の図は映像信号に含まれる同期信号のイメージである。
映像信号をそのままブラウン管に入力しても、同期信号の部分は帰線期間のうちに絵を黒よりさらに黒にする働きをするだけなので、全く問題は起きない。
しかし同期信号として映像信号をそのまま使ってしまうと、映像信号の一部が同期信号として働いてトリガーを掛けてしまうなど、不具合が起こってしまう。
そこで、同期信号のパルスそれだけを取り出す必要がある。
映像信号と同期信号との違いはその極性にあり、映像信号を正とすると同期信号は負の方向に伸びている。同期分離の際はこれを利用する。
つまり、映像信号を増幅回路に通し、映像の部分は飽和領域もしくはカットオフ領域になるようにバイアスを調整すれば、同期信号だけが取り出せる。
この場合、映像信号はあらかじめ直流再生してから入力しないと、動作点を調整しても映像によって同期信号の電圧が変わるため、絵が乱れてしまう。
用追記:回路例とか
同期信号には水平同期信号と垂直同期信号の2種類があるが、同期分離回路の出力はこの2つが合わさったものなので、さらに分離しなければならない。
水平と垂直の同期信号の違いはそのパルス幅にあり、30倍ほどの差があるため、適切な時定数を設定したCR微分回路とCR積分回路を使う事で分離できる。
水平同期は周波数が高いので微分回路、垂直同期は周波数が低いので積分回路を使う。
用追記:回路例と設計法
ノコギリ波発振回路は額面通り、ブラウン管を偏向するためのノコギリ波を発振する回路。
ノコギリ波というものは、時間とともに電圧が直線的に変化してゆき、ある点で最初の状態に戻る動作を繰り返す波形で、
オシロスコープで測定すると、その波形は文字通りノコギリの刃のような形をしている。
このような波形を作るには、抵抗を介してコンデンサを充電し、ある点でコンデンサを短絡するような回路をつくることで実現できる。
テレビには、次のような要件を満たす発振回路を使う。
- ノコギリ波の位相をトリガー信号の入力により制御できる
- トリガー信号の入力がなくても発振し続ける
このような要件を満たすのは、ブロッキング発振回路やマルチバイブレータ回路などである。
用追記:回路例、直線性の補正など
ノコギリ波の直線性が悪いと、絵に歪みを生じる。具体的にいうと、絵が下に偏ったり右に偏ったりする。
また、トリガー信号が入力されていないときのノコギリ波発振回路の自走周波数は、トリガー信号の周波数よりも少し低く設計せねばならない。
そうしないと、トリガー信号が来ているにも関わらず信号の間に自己トリガーが行われ、画像が途中で切れて左端に重なってしまう。
偏向回路は、ノコギリ波発振回路からのノコギリ波を増幅し、ブラウン管の輝点を画面いっぱいに十分偏向できるようにする回路である。
せっかくノコギリ波発振回路で直線性の高い信号を作っても、この回路で歪んでしまったら元も子もないので、大きな歪みが出ないよう注意する。
要追記:差動増幅回路、位相反転回路
ブラウン管回路はテレビの中でもいちばん肝心なところで、これが動かないと絵が出ない。
また、うまく設計できてないと像がやたら暗くなったり像が部分的に暗くなったりフォーカスが合わなくなったりする。
要追記
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